キャスティングを覚えよう
タックルの準備は完了したのだが、まだ釣りに出かけるにはやらなければならないことがあるのだ。フライフィッシングならではのキャスティングを理解しなければならないのだ。まずはキャスティングの理屈を考えてみようか。
その1.グリップの方法
さて、ロッドの握り方にはいくつかの方法がある。
サムオントップグリップ
親指をグリップの上側に乗せて握るのはグリップの基本スタイルだ。親指により力のコントロールがしやすく手首が回転しにくいのでロッドを真直ぐに振りやすいことと、ショートストロークでもパワーを入れやすくパワーキャスティングが可能なのだ。ただし手首の可動域が広くなるためキャストのミスも増えがちだが、その分リストの使い方次第で意識的にいろいろなループを作ることが出来る。ビギナーの方はこのグリップでループコントロールが自在にできるまで練習することをお勧めする。ミスに負けず、ミスをしなくなるまで練習あるのみ。
インデックスフィンガーグリップ
人差し指をグリップの上に乗せる方法は力のコントロールがしにくい分、ロッドのふり幅も大きく出来ない。このことが小さなストロークでのキャスティングをしやすくするためロッドのブレも少なく正確なキャスティングがしやすくなる。ピンポイントを狙うのに適したキャスティングでクローズドスタンスと併せると使いやすい。
フリーリストグリップ(V字グリップ)
インデックスフィンガーグリップから人差し指をグリップの内側に回すと親指と人指し指がVの字を作ることからこの名が付いた。高番手の重いロッドを振るには親指でロッドのコントロールをするよりはるかに楽なのだ。リストが自由に使いやすい反面、バックキャスト時にロッドティップが回り込みやすいので注意が必要だ。バックキャストはせいぜい顔の横ぐらいまでで止めることで回り込みの解消は可能だ。オープンスタンスと組み合わせることでロッドのストロークを増やすことが可能となり遠投するのに使いやすい。この方法はサムオントップよりも力を必要としないため僕のように筋力の落ちたシニアにもお勧めなのだ。
グリップは状況に応じて使い分けることが出来ると随分と釣りが楽になるんだ。僕は、スローアクションなバンブーロッドを使う時はサムオントップをファーストアクションのグラファイトロッドを使用する時はフリーリストグリップとロッドのアクションによって使い分けたりもする。
その2.スタンス
レギュラースタンス
目標方向に正対するのことからロッドの移動が真直ぐに行いやすくバックでの回り込みなどが起きにくいのでサムオントップグリップと併せると良い結果が得やすいので初心者の方はこの方法から初めて正しいロッドの移動方法を習得すると良いかもしれない。
オープンスタンス
右側の足を後ろに引いたスタンスは他のスタンスに比べると体の右側に稼動スペースが確保出来るのでキャスティングのストロークを十分に確保出来るので長いラインのフォルスキャストを行う時や遠投時に適している。ただし、バックキャストでロッドが回りやすくなるリスクもある。
クローズドスタンス(アキュラシースタンス)
クローズドスタンスは体の動きが抑制されることから正確なキャスティングが必要なときに用いられることが多い。最近流行のスぺイキャスティングはクローズドスタンスで行われることが多い。
スタンスとグリップの組み合わせパターンについて書いてみたがフィールドの状況によってスタンスは一様とはならないためどのスタンスでも投げられるようにしなくてはいけないよ。
その3.キャスティングの上達は理論から
さて、ロッドの握り方を覚えて立ち方も覚えたが、闇雲にロッドを振り回しても決してキャスティングが上達することはないし、上達できない理由がわからないまま迷宮に迷い込んでしまい兼ねない。君にはきっと手取り足取り教えてくれる優しい先輩がいるだろう、しかし先輩が教えてくれる事の意味を理解できるのと出来ないのとでは上達にするまでの時間が相当に違ってくる筈なのだ。教え方が上手いかどうかより、教えを理解できるかどうかの方が遥かに重要なのに気づきなさい。繰り返し練習して身体で覚えることも大事だが身体で覚えたことしかできないと柔軟なキャスティングが出来なくなる。理屈を理解することはキャスティングの上達には欠かせないのだよ。
では、早速キャスティングの理屈を説明しよう。フライを目的前方に投げるためにはラインにパワーを与えて転がり運動をさせなければならない、そのためにはラインを一度後方に投げて(それをバックキャストと呼ぶ)そのラインの重さ(正確にはラインの質量やラインスピードによる加速度などを総合した加重)によりロッドを曲げてやる必要がある。曲がったロッドの反発によってさらに加重されたラインの方向を転換して前方に放出してやる(これをフォワードキャストと言うのだ)ことで錘も無い軽いフライを遠くまで飛ばしてあげるのだ。 その一連の動作は水面にあるラインを空中に引き上げる動作(ピックアップ)から始まり後方にラインを飛ばす(バックキャスト)そして方向転換をして前方にフライラインを移動させる(フォワードキャスト)動作の後フライを目的の場所に落とす動作(プレゼンテーション)を行いフライキャスティングは完了するのだ。厳密に言うとバックキャストからフォワードキャストに移るまでの間ラインのループが展開するまでロッドを静止する動作(ポーズ)が前後一回ずつ入ることになる。ポーズの話は別途する事にするが下のイラストがフォルスキャストのイメージである。
それにしても錘も無いのにどうしてあの軽い毛ばりがあんなに遠くまで飛んで行くのだろう?
まずロッドを知ろう
キャスティングを語るにはロッドの特性を知らなければ話にならない。ロッドは、力を加えれば曲がり加えた力をゼロにすれば元に戻る。但し力をゼロにしてもすぐに元の位置に戻るのではなく元の位置を通り越して反対方向に曲がり又、逆方向に曲がり次第にその振動を吸収して元の位置に戻るという性質がある。それを弾性と言うのだ。そして曲げようとしたときに曲げられ無いようにする力が働き(反発力と言う)曲げられてしまうと元に戻ろうと言う力(復元力と言う)が働くのだ。このロッドの性質がフライキャスティングを可能としていることを覚えておこう。
ループが出来るメカニズム
フォワードキャストを例にとってループが出来るメカニズムを考えよう
バックのポーズ位置からロッドが移動して停止するまで
フォワードキャストに入り前方でロッドが停止するまではロッドティップがフライラインを引っ張ってくる。(フライラインは常にロッドティップに追従するものだ)
ロッドティップの停止によりループが発生する
フライラインを引いてきたロッドティップが急停止するとフライラインは慣性により前方に移動しようとする。この時、ロッドティップにも慣性が働きロッドの弾性によりロッドティップは前方に曲がる。この時に出来るティップの高低差をティップアーチと言い、このティップアーチによりループが発生する。もしティップアーチが無ければロッドティップに追従するラインはループを形成することなく、ロッドティップにぶつかってしまうことになるのだ。
ループの展開(ターンオーバー)
慣性により前方へ移動したフライラインはロッドティップが停止するとリール側のラインをリリースしない限りフライラインも移動を停止し慣性によりフライラインのティップ側が展開する。これをロールアウトと言う。普通はラインをリリースするのでリリースされた長さ分、前方に移動してからロールアウトすることになる。
フライラインのパワーバランス
フライラインの初速はロッドティップの初速に他ならない。この初速がフライラインを移動させるのに必要な速度を超えれば急激なターンオーバーが起こるし、速度が不足すればターンオーバー出来ないまま重力に負けて落下することになる。正しいキャスティングにはフライラインの長さに合った速度が求められるのだよ。
ナローループとワイドループ
ループが出来るメカニズムが解ったところでナローループ(幅の狭いループ)とワイドループ(幅広いループ)について考えてみよう。ナローループは空気抵抗が少なく遠投に向いていると言われており、ワイドループは空気抵抗が多くパワーがないので遠投には向かないと良く耳にする、そのとおりではあるのだが決してナローループがいけないと言うことではないので勘違いしないように、ワイドループはスピードこそ出ないが幅が広いためトラブルが置きにくく静かなプレゼンテーションが可能となる。特に空気抵抗の大きなフライや重いフライを投げる時には不可欠なのだよ。
ロッドの移動距離を短くすると必然的にロッドティップの停止角度が小さくなる。自然とロッドティップの停止位置が高くなりナローループを発生させることが出来るのだ。
ロッドの移動距離を大きくするとロッドティップの位置が下がりワイドループが完成する。ストロークの大小に限らずロッドのアクションもこれらのループに影響を与える大きな要因になる。
ティップアクションのロッドはティップ部分が曲がることからナローループが発生しやすくミディアムアクションのロッドは曲がる位置がバット寄りになり大きく曲がりやすいためワイドループが発生しやすくなるのだ。
だが勘違いをしてはいけない、上記の話はあくまでも二つのアクションのロッドを比べてみた話である。どちらのアクションのロッドもロッドの振り方次第でナローループだろうがワイドループだろうが自由自在に作ることが出来る。ロッドアクションなんて千差万別、ロッドを選ばないキャスティングが出来てこそ楽しい釣りができるのである。
これでキャスティングの理論は終了、あとは実践するのみ。ロッドを振ってみてうまくいかないと気にはここに書いてあることを中心にチェックしよう。上達すること間違いなしさ。(たぶん)
その4.キャスティングをしてみよう
練習を始めるには道具が必要だ、フライロッドとその指定のフライラインとそれが巻き取れるだけのフライリールがあれば良い。欲を言えば君のキャスティングを見てあーだこーだと難癖をつけてくれる友人がいれば尚良いのだが、人見知りの君には熱血指導をしてくれる友人の代わりに動画を撮影できるスマートホンやカメラを勧めよう、自分のキャスティングの欠点を発見するまで大声を出すこともあざ笑うこともなく何度でも何時間でも付き合ってくれるだろう。
キャスティングの練習には、#5から#6くらいのダブルテーパー(DT)ラインとそれを扱える8フィートから8フィート半くらいのロッドが準備できれば更に良いだろう。ある程度フライラインの重量とフライロッドの曲がりを感じられるくらいのセッティングが君の上達を速めてくれるかも知れない。 もっと贅沢を言うのなら練習は水面で行うのが良いに決まっている、ラインも傷まないし何よりラインに掛かる負荷は地面ではなかなか感じにくいからだ。
ピックアップ&レイダウンから始めよう
フライキャスティングの訓練に欠かせないのがピックアップとレイダウンの反復練習だ、前方に垂らしたフライラインを後方に投げては元に戻すだけの繰り返しは、ラインを空中で行ったり来たりさせるフォルスキャストに比べて地味でつまらないので避けて通りたいのが人情だが、バックキャストからフォワードキャストへの切り替えしのタイミングとプレゼンテーションのタイミングを身体で覚えるには最高のドリルなのだ。ホールと組み合わせることで後述するダブルホールのタイミングを身に付けるのにも有益だし、これだけでも充分釣りになるのだから絶対に避けてはいけない。
ピックアップ&レイダウンとは
Pickupは「拾い上げる」こと、Laydownとは文字通り「下(地面)に置く(横たえる)」こと。要は地面に伸ばしたフライラインを引っ張り上げて又地面に下ろす動作のこと。それの繰り返しがピックアップレイダウンと呼ばれるキャスティングの練習方法だ。
動作の概念図と併せて、ピックアップレイダウンを覚えよう。因みにこれから登場する概念図は解説を簡略化するため以下の前提条件にて記述します。実際のキャスティングでは肩・肘・手首が関連してキャスティングを構成しますがここでは考え方だけを理解するためにあえて無視しています。
ピックアップの方法
実際の釣りでも必ず行うのがピックアップ、流れてきたフライとラインを水面から剥がす方法は幾つもあるがそれは後程紹介する事として、まずは真っ直ぐに伸ばしたフライラインを空中に引っ張り上げることから始めよう。
レイダウンの方法
上げたロッドを前方に振り下ろし、元のラインのあった場所にフライラインを伸ばしてやるのがレイダウンと呼ばれる動作です。
- ピックアップ時とレイダウン時のパワーゾーンは異なるので加速のタイミングに注意しよう
- ロッドの移動の開始位置と停止位置の間をパワーゾーンと言う
ピックアップ&レイダウンがすべてのキャスティングの基本になる
ピックアップとレイダウンは、フライキャスティングに必要な1.ロッドへのパワーの伝え方、2.ロッドスムーズな移動と停止、3.バックキャストとフォワードキャストの切り返しのタイミング、4.効果的な肩・肘・手首の使い方、5.フライのプレゼンテーション等々の方法を習得するのにとても大切なドリルだ。フォルスキャストが乱れたときにはこのドリルに戻ることで修正することも出来る。前方に垂らしたフライラインを後方に投げては元に戻すだけの繰り返しは、ラインを空中で行ったり来たりさせるフォルスキャストに比べて地味でつまらないので避けて通りたいのが人情だが、前述したバックキャストからフォワードキャストへの切り替えしのタイミングとププレゼンテーションのタイミングを身体で覚えるには最高のドリルなのだ。ホールと組み合わせることで後述するダブルホールのタイミングを身に付けるのにも有益だし、この方法だけでも充分釣りになるのだから絶対に避けてはいけない。
フォルスキャストを理解する
さて、ピックアップが出来れば、フォルスキャスト(ラインを前後に伸ばすだけでいつまでたっても目標に投げないものだから偽りのキャストと呼ばれる)は簡単だ。フォルスキャストはラインループを自身の後方に作るバックキャストと前方に作るフォワードキャストの二つのキャストで構成され、この二つのキャストは連続して行われる、その一連のキャスティングをフォルスキャストと呼ぶのだ。
先ずはバックキャストから
フォルスキャストで重要なのはバックキャストだ、バックキャストが完璧ならフォワードキャストは自ずと上手く行くことに決まっている。しかしフォワードキャストが上手くできてもバックキャストがうまくいくとは限らない、それはバックキャスト時のラインループは目視で確認しにくいことが大きな要因だ。例えばリストの開閉具合や肘の移動によるループの変化がフォワードキャストでは確認できるがバックキャストでは難しい。リストが開きすぎてループが後方に垂れ下がったりロッドハンドが背中側に回りこんだりと言うビギナーによくみられるミスは後方に目が無いのが大きな原因である。更には後方への運動にはパワーが入りにくいのも原因の一つだ、よくフォルスキャストの例えにハンマーで釘を打ちイメージが使われるがよく考えてみよう、体の前方の釘は楽に打てるが後方の釘を打つのは非常に難しいはずだ、前方の釘はリストの動きによりハンマーを直線的に打ち下すことが出来るが、後方の釘を打とうとするとどうしてもハンマーは弧を描いてしまいパワーは直線的に集中しにくいからである。力の入りにくいバックキャストだが、バックキャスト時にラインを引いて加速させる(シングルホール)ことで移動エネルギーを増やしてやることが可能だ。
さて、バックキャストの難しさを理解したところで、ピックアップレイダウンのドリルが役に立つ、ピックアップのタイミングとループの形状はちょっと首を回せば確認できるからだ。キャスティングがおかしいなと思ったらピックアップレイダウンに戻ることは有用である。
フォワードキャストを考える
ならば、フォワードキャストは簡単なのかと言えばバックキャストよりは随分と簡単だ、ループの形状も自然に確認できるしラインの高低やループの形状も手首や肘の使い方で自由に変えられる。だが、その自由さが災いとなることが往々にしてある、手首を閉じるタイミングや力の入れ具合でロッドティップの移動軌跡がゆがんでテイリングループが起きるのがそれだ。ティップ移動の軌跡はロッドがどれだけ曲がろうとも平らになっていなければならない。それさえできればフォワードキャストは完成だ。
ロッドを急激に停止するとロッドティップが振動を起こしラインベリーにバイブレーションの波が現れる、それを避けるためにポーズと言う振動を吸収させる時間と運動を行う。実際にはロッドが停止しループが発生するタイミングでループの進行方向にロッドを移動させ振動の起点をずらすことで振動を吸収させる。図中にP・P’・P”のマークがあるのはポーズの動作における肩・手首・肘の位置をし増している。
スタートからゆっくり加速し急停止するイメージです。ロッドの急停止によるティップの反発で後方にループが放出されます。
腕が垂直の位置で急停止すると反発したロッドティップは垂直の位置よりも後方に移動します。バックキャストでのロッドの停止位置はよく時計の文字盤の2時の位置にたとえられますが、一般的な渓流釣りでのキャスティングでは1時くらいがちょうど良い位置です。そしてその位置は手首の位置ではなくロッドティップの位置であるべきです。
急停止した後、静かに速やかに反発したロッドティップの位置にロッドの傾斜角を合わせることで振動を吸収します。この動作をポーズと言います。実際にはリストを開きながら少しだけロッドロッドティップを移動方向に突き上げてやる感覚が良いと思います。
フライキャスティングで一番重要なのはバックキャストだ。バックキャストできちんとしたラインループが出来ていればロッドを前方に移動させるだけでフォワードキャストは自ずと上手く行くことに決まっているのだ。