6月8日 野尻川釣行

 イワナ祭りの筈だったのに

日、東北南部の梅雨入りが発表され、今日は朝から小雨が降り続いている。この程度の雨なら釣りには影響ないだろう、本格的な梅雨になる前に釣りに行って来た方が良いんじゃないか。都合の良い理由をくっつけて先週に続き南会津に向かった。今年は久しぶりに南会津の年券を入手したので少しは通わないといかんのである。それにしても一向に雨が止む気配が無い、それどころか会津に近づくにつれて雨脚が強くなる。一抹の不安が頭を過ぎるが、ここまで来て心配しても居られない、通り過ぎる川の色を恐る恐る眺めながら車は南会津方面へと向かう。鶴沼川は濁りは入っていないようだし、この分なら大丈夫だろう、午後は降水確率も下がる予報である。「ところで、どこに行くんだっけ?」、そう言えば未だ行く先の川を決めていなかったのに気が付いた。「また、戸石川?」-「先週のリベンジ?」-「ダメダメ、足場がヌルヌルでストレス溜まるだけになっちまう」-「戸石川経由でいっちょ野尻川まで行くか」-「年券使えねえじゃん」-「まあ、そこは諦めて」-「だな、良しイワナ祭りだ!」今日も又独り芝居を続けながら戸石川沿いを進む。

石川に掛る橋の上から川に目をやると少し水かさが増している感じがする、そのせいか幾分透明度が下がっているようだ。戸石川と目的の野尻川はちょうど下郷町と昭和村を分ける舟鼻山を境に南の阿賀野川と西の只見川にそれぞれ流れ込む。ようは舟鼻山を分水嶺として流れ分けるわけで、戸石川が増水していれば反対側の野尻川も増水している筈なのである。「多少の増水は仕方ないけど、お願いだから濁るのだけはやめて・・・」今日も神頼みの釣りになりそうである。国道121号線から県道131号線(下郷会津本郷線)をに出て戸石川を渡るとすぐ栄富地区で左から県道346号線(戸赤栄富線)と合流する。県道346号線に入り戸石川沿いに進むと戸赤地区にて南会津と会津川口を結ぶ国道400号線に出る。下郷町の赤石地区に「木地小屋」の板看板を掲げた家がある。ここには日本で唯一の水車式のろくろがあって、木工の体験が出来る。赤戸地区は代々、木地師が住む土地で木地小屋の地名も残る所、一度立ち寄ってみるのも楽しい。国道400号線出合いを右折し舟鼻峠を下れば目指す野尻川である。いつもお世話になっている民宿「松屋」さんで遊漁券を求めて入渓場所へ向かう。

の袂の空き地に車を停めて護岸の上から川を覗いてみた、水量は通年と変わらないようだが幾分うっすらと濁りが入っているようだ。よく見ると茶色い水の筋があって何処からか濁り水が流れ込んでいるようだ。一瞬、川に入るのを躊躇ったが、ここまで来て何事も無くドライブして帰りましたじゃあ笑い話にもならない。レインウエアの上にベストを羽織って少し下ってから入渓することにした。野尻川は両岸護岸で、しかもこの護岸の傾斜がはなはだきつく(下から見上げたらほぼ垂直(笑))、入渓点も限られるので入渓したら最後、次の退渓場所までは釣れても釣れなくてもひたすら歩くしかないのだ。川の透明度も下がって来ているような気もするし、釣りが出来る時間も限られるかもしれないので、いつも入渓する場所より少し上流の堰堤上から入渓した。

野尻川
この流れで3匹のイワナを釣る予定だったのだが・・・。
野尻川
この流れで3匹のイワナを釣る予定だったのだが・・・。

に立ったころからまたしても雨が強くなってきた。リーダーにティペットを繋ぎ直して曰く付きのフックに巻いたソラックスのフライを結んだ。(未だ諦めていない(笑))このポイントでイワナを3匹釣ったのを皮切りに今日はイワナ祭りにしようと決めていた。落ち込みから流れ出す水量のある流れは両岸の張り出しによって狭められ小さな二段目の落ち込みの下に広いプールを形成している。流れは右岸に沈んだ大岩によって左岸に曲げられ深みを作るその岸沿いを通りやがてプールの開きへと解けていく。先ずは右側の小さな水路が流れ込む岸沿いにフライを流す。まずここで一匹釣る予定だ。しかし、フライは何事も無く岸の草の下を流れ過ぎた。何度流しても結果は同じ、きっと水が濁るのを想定して流れ込み近くの白泡の下にでも集まっているのだろう。なんて賢いイワナたちだ。次は右岸の沈んだ大岩の手前、流れが止まって見えるが実は彼らの親分が潜んでいるのだが、全く反応無し、おかしい、親分は何処に出かけたのだろう。右岸からゆるくカーブして左岸にぶつかる流れに生きの良い特攻イワナが流れてくる元気な羽虫を待ち構えている。カーブなりに流れたフライを見逃す筈も無いのだが一向に反応が無い。一体何事なのだ、おかしすぎるではないか。片道3時間かけて来た僕の予定を何だと思っているのだ。ここのイワナは義理人情に厚い親分肌だと思っていたのだが、血も涙もない輩に成り下がってしまったのか。その上の流れの落ち込み下の深みのイワナも全く挨拶無しとは誠に心外である。落胆である。その上の流れは流れ着いた土が流れを分断するように居を構えていて、どれも小さな盥ほどの深みを持つだけだった。その小さな盥をピンポイントで打つも誰も返事をしない。まさかの集団疎開か、いやいやこんな山村から何処に疎開すると言うのだ。

つの間にか雨は上がっていた、茶色の流れは本流に溶け込むでもなく明確な筋を作って流れていた。とても蒸し暑い、ベストの中に着込んだゴアテックスのレインウェアがとんでもなく通気性が悪い気がする。早いとこ車に戻って脱ぎ捨てたい気持ちにかられるが、先に書いた通りここから地上に這い上がるのはほぼ不可能なのである。少し開けた浅い流れに出た、浅瀬の小さな沈み石の前にフライを落としてみた、フライが石の横に流れた時に飛沫が上がった、「ついにやったよ」物凄い安堵感に包まれたのも束の間、ローリングの果てに頭を振ったとたんあの何とも言えぬクニャっと感とともにロッドに掛るテンションが解けた。やっと出た最初の一尾をあっけなくリリースした僕をこれ以上無いだろう脱力感が包んだ。「原因はやっぱりこいつだ、もう間違いない」「帰ったら検証しよう」間違いなくこのフックはおかしい。それよりもこの蒸し暑さがたまらん、やっと見つけた鉄棒の階段を見つけて川から這い上がった。

野尻川のヤマメ
異様に腹の膨れたヤマメ、何入っているのだろう。
野尻川のヤマメ
異様に腹の膨れたヤマメ、何入っているのだろう。

計の針は2時半を指していた、まだ時間はあるので少し上流に移動してみることにした。川岸の土手から護岸を降りられる場所を探して歩く、途中田んぼの脇の水路の草刈りをしている人たちに出会う、今日は水路掃除の日なのだろう水路の泥を上げたり草を刈ったりと働いている皆さんの目には、その傍を釣り竿を手に呑気に歩く親父をはどう映っているのだろう。そう考えると何とも恥ずかしくなってうつむき加減に通り過ぎるのだった。そうか、茶色い筋を作って流れ込んでいたのはこの水路の水なんだな、ならば、ここから上流は濁りは無いはず、案の定上流は水量こそ幾分多いものの濁りは見えなかった。入渓場所を見つけて川に降りた。去年巻いたTMC103のフックを使ったフライを流心脇の流れに落とすと、飛沫を挙げてフライを咥えたのはズングリと太ったヤマメだった。「何?ヤマメ?」ここはイワナの川だった筈、一瞬戸惑ったがそう言えばさっきバラしたのもローリングしてたっけ。「ここにヤマメが居るのか、イワナの川だよな・・」僕の予定はここでイワナをたっぷり釣って、時間が有ったら別の支流のヤマメポイントを釣る筈だった。それなのにヤマメって・・・。その後も釣れるのはヤマメ、イワナの姿は何処にも見当たらないのだった。

野尻川のヤマメ
すっかりヤマメ祭りになってしまった、あのイワナたちは何処に行ったのだろう・・・
野尻川のヤマメ
すっかりヤマメ祭りになってしまった、あのイワナたちは何処に行ったのだろう・・・。

ち込みの上の瀬尻にフライを落とすと、ヤマメが水面を割る。ところが全然合わせが利かない。よく見ると落ち込みにフライラインが巻きこまれれて非力な2番ロッドではフライまで力が届かないのだ。次のポイントでも同様だった。おかしい、落ち込みにラインが引かれるなどと、どれだけ釣りがへたくそになったんだ。次の堰堤下の深い水路のような流れ、流れの解けるあたりにフライをキャスト、飛沫だけを残してヤマメが消えた、どうにもこうにも合わせが利かないのだ。今回は落ち込みにラインが巻きこまれた訳でもない。流れるラインをよくよく見たら先端2フィートくらいが完全に水面下を流れている。太いフローティングラインが水中に沈むと引っ張るのに結構な抵抗が掛る、今日の二番ロッドくらいになると引き上げる力が不足して合わせが利かなくなるのだ。慌ててラインを回収し丁寧にクリーニングしてから同じ流れの流れ込み付近を狙ってフライをキャストした。今度はフライラインがちゃんと水面に浮いている。予定通りヤマメがフライを咥えた、合わせが効かないと言う事も無くフックアウトすることも無くヤマメはネットに入った。ラインのメンテナンスは大事だよと他人には常々言っているのだが自分がそれで墓穴を掘るとは何とも情けない話である。その後も、予想に反してヤマメは元気に遊んでくれた。イワナ祭り一転ヤマメ祭りとなったのだった。ヤマメ釣りはそれなりに楽しいのだけれども今日はイワナを釣りにわざわざここまで来た訳で何とも腑に落ちない釣りになってしまったのである。

野尻川小堰堤
僕のランディングネットが白泡に飲み込まれた。
野尻川小堰堤
僕のランディングネットが白泡に飲み込まれた。

中、腰の高さほどの堰堤を正面から越えようと右足を堰堤の上にあげ「ヨイショ」の掛け声よろしく堰堤の上に上がったら垂らしていたフライラインが堰堤の壁に引っかかり、それを外そうとしていたらランディングネットのカールコードにも絡み、わしゃわしゃしていたらネットがコードから外れて堰堤下の白泡に飲み込まれてそのまま行方不明になってしまった。20年は使っているだろうブローディンのネット、塗装も色も剥げて傷だらけのネットだけれど僕にとっては思い出がたくさん詰まったネットなので見つけた方は是非お知らせくださいませ。お願いでございます。

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