7月15日 山形県 玉川釣行

 心も身体も...折れた...

だ梅雨明けしない日本列島はあちこちで大雨の情報が出されている。ここ福島も三連休初日の今日はたまたま好天に恵まれたものの、明日の日曜日は雨の予報である。三連休最終日は山形の小国町に釣りに行くと言う弟に僕も便乗することにした。「小国は今日も雨降ってないし、明日も大丈夫」と、まるで見て来たかの様に語る弟の話もイマイチ信じがたいのだが、そこはそれ、この手の話は行くこと自体に意義がある。そう、行かなきゃ何も始まらないのである。朝から雨は降り続き不安な気持ちが増す中、夕方に弟が迎えに来た。今日は、30年来の愛竿、Pezon et michelのBreton Villiers(ブレトンビリエール)を持つ。太いロッドケースは車中泊の邪魔になりそうなので、ロッドソックスだけ抜き出して自宅のロッカーに置いた(余計なことを・・・)

雨降る中、東北道を北上し飯坂インターを過ぎて東北中央道に入る。さて、この東北中央道(東北中央自動車道)は、福島県相馬市から秋田県横手市を結ぶ高速道路として事業化されていて、2019年4月13日に南陽高畠IC~山形上山IC間が開通したことで、東北道福島JCTから山形県米沢市を経由して山形県東根市まで高速道路化された。残りの区間は一部一般国道を挟んで分断されているが2020年に福島県相馬市から東北道福島JCTまで接続されれば、残す秋田山形の4区間の完成を待つだけとなる。東北中央道の内、冬季の難所であった旧国道13号線栗子トンネルを含む福島大笹生IC~米沢北IC間は国の直轄道路として作られたため高速道路料金が無料となっている。小国町へは米沢北ICで降りるか、南陽高畠ICで降りるかで前者は無料、後者でも310円(休日なら220円)で行ける。因みに福島JCTに一番近い飯坂ICから寒河江川に釣りに行く場合、東北中央道を使うと東北道+山形道を経由するよりもETC使用で670円、ETC無だと1,000円安くなる(平日料金)し、かかる時間も12分ほど短縮される(NEXCO東日本データ)ので東北中央道を使うのが絶対お得。 僕らはいつも、米沢市内をパスして南陽高畠ICから国道113号線に出る。これが一番ストレスが無くて良いルートである。

平安の湯
米沢市内の「平安の湯」で禊を済ませてから出陣(笑)
平安の湯
米沢市内の「平安の湯」で禊を済ませてから出陣(笑)

つもなら南陽高畠ICまで降りるのだが、今夜は米沢北ICで降りて米沢市内に入った、市内にある弟のお薦めの温泉で禊をしてからのんびりと小国町入りする魂胆である。源泉かけ流しの「平安の湯」は23:00までやっているらしい。時間はたっぷりあるのでのんびりとお湯に浸かって満足満足。確かに露天風呂(屋根があるので室内感たっぷり)や、岩盤浴(別料金らしい)などもあって300円は安い。岩盤浴の入り口には「玉川温泉の・・・」って看板があり、え?玉川温泉の石使ってんのか、と思いきや、その横に小さな文字で「・・・の湯の華を使った人工北投石を使ってるんだぜ」って書いてあった、なるほどねえ・・・。風呂上りは、やっぱりAsahiのノンアルコールビール、遠征の時はクーラーボックスにしこたま入っている(笑)、弟がドライバーなので本物でも良いのだが、最近人間が出来て来た僕は一応気を使ってノンアルコールにしている。今夜は道の駅「白い森おぐに」の駐車場にて車中泊、途中コンビニで調達したカップ氷にバーボンを注いで寝酒にした。

タマガワホトトギス
遊歩道脇に咲くタマガワホトトギス。タマガワホトトギスのタマガワはここ玉川の事ではない、京都の木津川支流の玉川が語源である。
タマガワホトトギス
遊歩道脇に咲くタマガワホトトギス。タマガワホトトギスのタマガワはここ玉川の事ではない、京都の木津川支流の玉川が語源である

んやりした冷気に目を覚ました。時計の針は4時半を指している、ボーっとした頭を無理やり無理やり叩き起こした。近くのコンビニへで食料を調達し、おにぎりにパクつきながら玉川上流へと車を走らせた。気になるのは玉川の水量、飯豊山の雪解けの状況が直接影響するので毎年のことながら釣行のタイミングが読めない川なのである。国民宿舎の梅花皮荘近くの川を覗くと水量は落ち着いているようで一安心、春の大雪に見舞われた去年は7月を過ぎても雪代が入っていたのだが今年は良さそうな感じ、期待に胸が膨らむ。雪渓の残る渓を横目に山道を上る、やがて地蔵橋を渡れば目前に飯豊山荘が現れる。通行止めのゲート付近に車を停めた、早々に釣り支度を整えて山毛欅の森を縫う遊歩道を進む。数年前にスズメバチが営巣していた大きな穴の開いた山毛欅の古木を過ぎ、森の巨人と名の付いたヤチダモの巨木を見上げ、大きなコブを持つ山毛欅の木とその枝と小さな葉が切り抜いた青空と白い雲に癒されて、足元のタマガワホトトギスの小さな群落にレンズを向ける。街暮らしで鈍った心と体に鞭打ちながら釣り場に続くトレッキングコースを楽しみながら目的地の温身平を目指した。

梅花皮沢とPEZON
開豁な渓でのイワナ釣りをイメージしていたのに・・・今日の流れは手ごわすぎる。
梅花皮沢とPEZON
開豁な渓でのイワナ釣りをイメージしていたのに・・・今日の流れは手ごわすぎる。

身平で合流する梅花皮沢に掛る橋が見えてくると「あれ、何この音?」と弟が口にするほどの、ゴオーと言う激しい流れの音が聞こえて来た。梅花皮沢の流れが本流に合流する取水の堰堤は、堰堤下の水量からは想像出来ないほどの増水で、その圧倒される水量で溢れていた。とりあえず支流の梅花皮沢に入ることにした、弟は第一堰堤の上に入り、僕はその少し上流から川に降りた。雪代こそ無いが、何とも春先を思い起こさせるような水量だ、雨のせいなのか雪解けの水がまだ落ち着いていないのか、かなりの水量と水圧が僕の鈍った下半身を掬い上げようとする、この流れに逆らっての遡行は相当厳しそうだ、足元を探りながら中州に渡りキャスティングを開始したものの予想を裏切ることなくイワナからの反応は無い。重い流れに足を取られながら上流を目指すがフライに反応する魚影も無く、大岩の間を激しい音を立てて流れ落ちる川を前に気力も失せ大石に座り呆然としていると、やがて釣り上がって来た弟が「上がるべ」と呟いた、僕より先に弟の方が根を上げるのも珍しいのだがそれほどの水量だったって言う事だ。「これじゃ釣れねえもんなあ」と言うと「一匹釣れたよ」としれっとした顔で言う。「なに、釣れたのか?どこでよ?」「下の流心脇で」こんな状況でも釣る奴は釣るのである、多分何か勘違いした間抜けイワナだと思うのだが。

んとか釣りになりそうな堰堤下の区間に入ることにしてさっき歩いてきたばかりの遊歩道を下る、久々のウォーキングに僕の心臓はハアハアと激しく息をつく、なんかしんどい釣りになりそうな予感がしてきた。遊歩道を外れて、藪をくぐり10分程、踏み後をたどると河原に降りた、やはり水量は少なくないが上流ほどでは無い、十分に釣り上がれるだろう一安心である。ところが釣り始めて間もなく下流から釣り上がって来る若いフライマンの姿が見えた、彼は僕らを見つけるとその脇をスーッと通り過ぎて僕らの上流に入った。仕方ないので僕らは彼の後に着いてのんびりと彼の釣り残しで遊ばせてもらうことにした。彼が離れるまで同じ流れにフライを流し続け、やっと彼の姿が視界から消えた頃を見計らって僕らも釣り上がり始めた。ところが釣り上がってほんの数分、カーブを曲がった先に彼の姿があった、僕らはロッドを小脇に抱えたまましばらく眺めていたのだが全く移動する気配が無い、ああ、これはダメだ、僕らのペースと全く合わない。流石に追い越すのも気の毒だし、僕らは今来たばかりの藪の中へと戻った。

雪渓と釣り人
雪渓を釣る僕、春先の大雪が未だに残っていた。
雪渓と釣り人
雪渓を釣る僕、春先の大雪が未だに残っていた。

か、しっくりこないまま釣り場を追いやられた僕らはとうとう最後のポイントに向かった。またまた、藪に突入し弟とロッドを受け渡しながら崖を下り土手を上る、やっと藪を抜けてゴロタ石の広い河原に降りた。とたん、僕の右足が茂った葛の茎に掬われて、頭から宙に舞った。右足首を支点に、まるで体操の内村航平張りの右四分の一ひねりを入れて頭からゴロタ石の上に落ちた。右手のロッドは着地寸前に放して大事に至らなかったが、当の本人は右側頭部、右前腕部内側、右胸骨部並びに右膝を思いっきりゴロタ石に打ち付けた。着地失敗である。暫くは起き上がることも出来ず、「う~」と言ううめき声しか出せなかったが、落ち着いた頃に弟に手を引かれ何とか立ち上がった。軽くロッドを振ってみる、腕と右胸はかなり痛むが肘さえ上げなければキャスティングが出来ないほどではない。肘を動かさないようにロッドを水平移動させることでなんとかく釣りは出来そうである。

イワナ
狙い通りのポイントからイメージ通りにフライを咥えたイワナ、強かった。
イワナ
狙い通りのポイントからイメージ通りにフライを咥えたイワナ、強かった。

い瀬から流れ込む大きなプールの流心が泡と一緒に開けるあたりにフライングアント#14が流れた時、水中から浮かびあがったイワナがフライを飲み込んだ。飛沫を上げると勢い良く水中深く潜る、ロッドが締めこまれた。ロッドを寝かしてイワナの向きを変え水面に浮かせるが、イワナは広いプールを縦横無尽に走り回った。ロッドのテンションをかけ続け水面に浮かせると飛沫を上げて水中に突っ込む、何度繰り返しただろうかプールの尻まで誘導して半ば強引にネットに収めた。尺には若干届かないがコロコロと太った綺麗なイワナだった、僕はファイト中、完全に尺イワナだと思っていた。リリースし終えた時、忘れていた激痛が右胸に走った。このプールの上の長い瀬にもイワナが着いているのだが何故か反応が無かった。居ない訳では無いだろう、まだ少し時間が早いのかもしれない。その上の大きなプールの尻に20cmほどのイワナが流下する何かを追っていた、遠めにフライを投げるのだがリーダーが宙にあるうちに危険を察して逃げていく、またすぐに戻るのだがフライが宙を飛ぶと着水前にサーっと位置を変える。よほど訓練されているらしい。こんな輩にかまっている暇はない、目的のポイントはもう少し先なのだ。

きなプールとプールを繋ぐ段々の瀬の小さな落ち込みの肩で飛沫が上がった、まさか出るとは思っていなかったこともあって合わせ切れなかった。胸の痛みが強くなるのに合わせて集中力も落ちていく。いよいよ、目的のポイントに着いた、広い中州が川を左右に分けていつも弟が右岸側、僕が左岸側の流れを釣る所、ところが、左岸側の渓相が大きく変わっている。何があったのか、ここ以外は何も変わっていないのだが。変わったのは渓相だけでは無い、普段なら良いサイズのイワナが何本も付いている筈なのに全く反応がないのだ。右岸沿いに釣り上がった弟は既に上流のお気に入りのポイントに入っている。ここも反応が無いらしいが、途中の瀬がらみで3匹ばらしたと言う、フックの先にゴミが刺さっていたらしい。「一匹バラしたらフライのチェックを忘れるな」・・・定石である(笑)

ロッドティップ
スペアのティップが折れた、なんでロッドケースごと持ってこなかったんだと言う・・・。
ロッドティップ
スペアのティップが折れた、なんでロッドケースごと持ってこなかったんだと言う・・・。

うにも思った釣りが出来ない僕らは、一旦川を出て昼食をとる事にした。数年前までは、昼食も何か簡単な料理をしたものだが最近は歳のせいかどうも面倒くさくてコンビニ頼りになっている。日常の気ぜわしさが染みついてしまったのか、何やら落ち着きのない釣りが多くなっているのも事実、少しゆとりを持った釣りを復活させる必要がある気がしてきた。昼もそこそこに済ませ、ちょっと目の前の流れを釣ってみようかと言う事になった、テーブルやら椅子やらを車に積もうとした時、ぺゾンの赤いロッドソックスが目に入った、車の荷室にそのままに置かれていたロッドソックスにもしやと思ってよく見ると、見事に折れたティップが赤いソックスから飛び出していた。どうやら移動中に僕の思いベストが転げて乗っかったらしい。今シーズン4本目のバンブーロッド破損、もう涙も出ないし、呟く言葉も見つからない。なんでロッドケースごと持ってこなかったのか、毎回頭に浮かぶ言葉が「後悔先に立たず」である。それが全くもって教訓になっていないのだからあきれて言葉にもならないのである。

めて入ったポイントは対岸の瀬で一度反応があっただけ、手前の流心にラインが引かれて合わせが効かなかった。午前中の小雨交じりの天気とは打って変わっての青空に気温も急上昇し僕はもう汗だくになっていた。魚も釣れず、胸の痛みと疲労とが一緒になって体力も限界、河原で石の上に腰をおろした。まるで灰となって燃え尽きた「明日のジョー」のようになって居るところに弟が釣り上がって来た。「釣れなかったべ」と言うと「いやあ楽しかった」と弟が答えた、「何?釣れたのか?」と聞き返すと「いやあ楽しかった」と★☆の一つ覚えのように繰り返すではないか。「ほーら♪」と言って差し出したスマホには良型のイワナが何匹も写っていた。「狙うポイントポイントから出てくるのよ、いやあ楽しかった」そんなことってあるのか、僕と弟が分かれた上流と下流数十メートルの間で全く釣れない僕と大漁の弟、なんだ、何がどうしたと言うんだ。俺の何がいけないと言うのだ、そりゃあ夜通し運転している弟の横で高いびきで寝ていたのは僕だがそんな仕打ちはおかしくないか。

川入荘の露天風呂
以前から入りたかった国民宿舎梅花荘の別館川入荘の露天風呂。景色もお湯も素晴らしい。
川入荘の露天風呂
以前から入りたかった国民宿舎梅花荘の別館川入荘の露天風呂。景色もお湯も素晴らしい。

地よい汗をかいたルンルンの弟と疲労困憊で汗だくの僕は、国民宿舎梅花荘の露天風呂で汗を流してから帰路に就いた。大切なバンブーロッドと己の肋骨も折って、痛い痛い一日が幕を閉じた。

PS.翌日は会社休んで整形外科に行った。「骨折ですね、一か月くらいかかりますね。」とDrがおっしゃった。「何もできないのでシップ張ってロキソニン飲んで、2週間たっても痛みが酷いようだったらまたおいで」と言われて帰って来た。・・・笑わすなよ、肋骨に響くんだから・・・。

文字通り、心も身体も折れた日
FFこみゅへのご意見・お問合せはこちら