8月11日 山形県 玉川釣行

 ひと月ぶりに玉川へ

よいよ夏休みに突入、例年ならちょっぴり遠くまで足を延ばすところだが今年の僕の休みはほとんどカレンダー通りなので、遠征と言うほど遠くに出かけられる状況ではない。それでも折角の連休だしテン泊もしたいし、「只見に行かない?」と弟を誘ったら「先週玉川でブローディンのランディングネット無くしたから探しに行こうと思ってる」と言うので、仕方なく只見を諦めて弟のネット探しに付き合うことにした。先週、釣りに来て川に降りる途中で足を滑らせたときにネットを落としたらしい。兄を出し抜こうとするとそういう事になるんだっての、何度言ってもわ解らん奴である。 10日、19時過ぎに家を出た。前回同様夜のうちに小国町まで進み早朝玉川に入る予定である。 日付が変わる頃に今日の目的地の道の駅白い森おぐにに到着した。 駐車場の隅っこに車を停めて朝まで仮眠をとる、時間が有れば近くのキャンプ場にテントを張るのだが明日の午後には帰らなきゃいけないので車中泊することにする。軽くバーボンを煽って眠りに着いた。

セラピーロード
早朝ののセラピーロードを行く、未だ鳥の声も虫の声もしない、身体と心がリセットされる時間
セラピーロード
早朝ののセラピーロードを行く、未だ鳥の声も虫の声もしない、身体と心がリセットされる時間

朝5時半に「ブナの森温水平」のセラピーロード湯沢ゲートに到着した。恐れていた通り、車の周りをメジロアブの集団に取り囲まれた。この時期の恒例行事なので驚く事では無いのだが集団で車に体当たりしてくる様は狂気としか言いようがない、「もう少し落ち着きなさいよ君たち」といつもなだめるのだが、言う事を聞かない。 車のエンジンを停め5分ほど車の中で待機し奴らが散ったところで外に出る、前回よ釣行時は、まだ、アブの数も少なかったが流石にこの時期は奴らの最盛期なのだ。 その割に、車外に出た僕らに襲い掛かるアブの姿は無い、さっきの奴らはいったい何処に消えたのだろう、いないに越したことは無い、おかげで釣り支度ものんびりできた。 そう言えばこの辺のアブ達って妙に大人しい気がするのは何故だろうか、今までもしつこく追いかけられたような経験はない。福島県の会津、特に只見川流域のメジロアブの攻撃と来たらロッドを放り投げて逃げ出すくらいの恐ろしさだし、銀山平の奴らなんか食事中の口の中まで無遠慮に飛び込んでくる。福島と山形の県民性の違いか?(どんな違いだ(^^;))、考えたら朝日村の大鳥川のアブも長井市の野川のアブもかなりしつこかったのでどうやら県民性によるものでは無いらしい(笑)蚊と同様、産卵期にたんぱく質補充のために吸血するらしいから、もしかしたら産後のアブ達だったのかもしれない(笑) 湯沢ゲートから温身平の遊歩道を玉川上流に向けて進む、このエリアは平成18年に日本初の「森林セラピー基地」に認定され、遊歩道も整備されて軽装でもブナとミズナラの白い森を散策できるようになっている。この森を通り釣り場に向かう数十分の時間が、下界用の身体を森林用に適応させるに丁度良い時間なのだ。下界の澱んだ空気から少ない酸素を取り出す為にフル稼働していた肺臓が、必要最低限の働きで下界の何倍もの酸素を体中に運べるようになるとオーバーヒート気味だった脳の温度も下がり大量のα波とともに体中が森林モードに変わるのだ。

流の梅花皮沢に掛る橋に出る。弟がネットを無くしたのは更に上流だそうだが、今更ブローディンが逃げ出すことも無いだろうから、まずは梅花皮沢を釣ってからにしようと決めた。いつもの場所からいつものように分かれて入渓した、2週間前と比べれば明らかに水量が減っている、これなら安心して川通しできるだろう。やっと玉川らしい釣りが出来そうになって来た。 ところが期待とは裏腹に何とも魚の反応が良くない、まだ時間が早すぎるのも事実だがそれにしても動きが悪い。 ふと集中力が切れた時に落ち込みの肩から飛沫が上がった、あまりに唐突で合わせすら出来なかった。もしかしたらα波が出すぎかもしれない(笑) 時間のせいなのかプレッシャーのせいなのか本来出るだろう流れからは全く反応が無い、去年大イワナを掛けたポイントに執拗にフライを流すのだが、水面が割れることは無い。 もしやと思いその流れを越えた先の岸ギリギリの浅場にフライを落としてみた、いきなりのライズがあってロッドを上げようとしたが流心にフライラインが取られていて合わせが効かなかった。やはりα波が出すぎらしい、γ波出さないと気持ちよく惨敗しそうだわ。 さて、少し集中しなおしてもう一度同じ場所にフライを落とす、ラインを上流に大きくフリップしてドラッグの掛る時間を稼ぐ、50cmくらいフライが移動したところでさきいのイワナがそれを咥えた。流心の太い流れに引かれて下の段の深みまで転げ落ちたイワナをロッドを立てたまま追いかけてネットに入れた。グッドコンディションの元気なイワナだ、まだまだ大きなイワナがいるはず。

が付くと、弟は遥か上流の広い流れの右岸の崖に座り込んでいた、いつも何匹かのイワナが出る一級ポイントなのだが弟のフライは静かに流れを下るだけだった。「えー!出ないのか?」もしやと思い、その広い流れが分かれて落ちる一つの帯の石裏の小さなポイントにフライを落とした。案の定、そこにイワナが入っていた。 やはり、流れには出ていない。時間が早いのか、週末のプレッシャーなのか小さなポイントに潜んでいるらしい。それがわかればそれなりに釣りになる、同じようなポイントでイワナは顔を出した、残念ながら期待した大型は顔を見せなかったけれど。 この川でこういうピンポイントの釣りは少し窮屈だ、ゆったりとした流れにフライラインを延ばす、流れの中からゆっくりと浮いてきてフライを咥える、そんなイワナが見たいのだ、ただそれだけでこんな遠くまで来るのだから。

クリケット
フライングアントが見切られたので、気分を変える為にクリケットを結ぶ
クリケット
フライングアントが見切られたので、気分を変える為にクリケットを結ぶ

大堰堤下のプールに出た、弟は右岸の吐き出し沿いに釣り上がり、僕は左岸の岸沿いの巻き返しを狙う。 一投目、大堰堤から滝のように落ちる水がまっすぐ自分に向かってくる流れに羽蟻フライを流した、水底の岩盤が大きく裂けて水中に道を作っているその上、割れ目の終わりをフライが流れた時に水底から大きな影が浮いてきた。見るからに尺をはるかに超える大イワナだ、突然僕の心臓が大きく波打ち、肺臓が動きを停止した。一瞬の酸欠に窒息しそうな時間、全ての神経が眼球と右手の小指に集中した、「咥えろ!」とわずかに残った思考回路が呟いた。 口を開いた瞬間ちょっとだけフライが動いた、そいつはフライに一瞥をくれると身を翻して静かに水中に消えた。 同時に僕の肺臓が息を吹き返してフーっと音を立ててたまった毒を吐き出した、その反動でたんまりと酸素を吸い込むと体中の部品が生き返った。 「あああ・・」「えええ・・」「ぐぐぐ・・なんだあ一体・・」言葉にならぬ言葉が口を付いて、その光景を脳みそが再投影する。 もう一度同じところにキャストすると、またあいつが浮かんできた。今度は口を開くことも無く、流れる羽蟻にでは無く、ボーっと眺める僕を一瞥して水底に消えて行った。 暫くの間、ボーっとして流れを見つめていた、何を考えていたのか、何も考えていなかったのか自分でもよく覚えていない。 ふと我に返って、羽蟻のフライを眺めた「何が悪かったんだろう、やっぱりドラッグなのか・・・」

反転流
堰堤から落ちる流れが足元で右に反転する、その流れにイワナが付いている
反転流
堰堤から落ちる流れが足元で右に反転する、その流れにイワナが付いている

ういう流れの釣りが好きだ、イワナにも考える時間が有っていい、考えて考えて、そしてフライを咥えてくれたならもう何も言うことは無い。フライフィッシングが本当に楽しいと思う瞬間だ。 ティペットをチェックしてコオロギのフライを結んだ。 滝からの流れが足元の岩にあたって大きく抉れた崖沿いに巻き返しを作って元の場所まで戻って行く、足元近くの岸沿いに沈む石にイワナがついている筈だ、ちょうど僕の様子を窺うように身を潜めているだろう。そんな場所に直接キャスとしてはいけない、愚行にあきれたイワナがそっぽを向いてしまう。 僕は、滝からこちら向かう流れにコオロギを落とした、ロッドティップを縦にフリップして余分なラインを出してやる、ティペットとその先のフライは足元の流れで右にカーブを切ると小さな白泡と一緒に沈み石の方に向かってゆく、もう一度フリップしてラインを出す、ドラッグだけは何としても回避しなけりゃいけない。 白泡が切れたところで飛沫が上がった、ギュンギュンとラインが引かれロッドティップがお辞儀をする、深いプールの底めがけて突っ走る「さっきのか?」そんなはずは無いが結構な力で水中を走り回った。27cmくらいだろうか、深場のポイントに棲むイワナはとても力持ちなのだ。 リリースして、弟の方に目をやるとタイミングよく弟もイワナとの格闘中だった、ネットに入ったイワナはこちらから見ても尺はありそうだったが、泣き尺だったそうだ。 同じ巻き返しの流れのもう少し奥、もうすぐ流れ出しに戻ろうとする辺りまでコオロギを送り込んでやる、岸沿いに白泡と競争しながらカーブの頂点を過ぎた辺りで小さな飛沫を上げるのとほとんど同時に深みに向かって強烈に走る、水中を右に左に縦横無尽に走り回る、尺超えは間違いないと思ったのだがこれも28cmくらいだった。 そろそろ、本流に向かうことにした、「思ったよりも良い釣りになったな」と僕が言うと「いや、良くない」と弟が言う、「結構魚も居たしな」と言うと「いや、一匹しか居ねえ」と弟が言う。前回の釣行と真逆じゃないか、大笑いだ、今回は僕に女神が微笑んだって訳だ。まあ、先週兄を出し抜いた罰だな。

雪渓と釣り人
反転流の中からクリケットを咥えたイワナ、白い森に棲むイワナは限りなく強く美しい
雪渓と釣り人
反転流の中からクリケットを咥えたイワナ、白い森に棲むイワナは限りなく強く美しい

流に入ると目の前に先行者が居た、流石に釣りにならないので弟のランディングネットを探して上流に向かう事にする。 飯豊山への登山道を川沿いに上り、途中の藪を弟が覗き込む、「このへんだっけかな・・・?」「違うな、もっと上かな・・・?」このあたりは川に降りれる場所なんて少ないんだからわかるだろうに。 「ああ、ここだ、多分間違いない」と藪の中をかき分けて進んで行く、川に降りるにはちょっと危険じゃねえかってくらいの崖を降りるらしい。 「ここで、滑って下まで落ちたんだ、その時にネットも落ちたんだと思うんだよなあ」と言うのでその辺りの草の中を探してみるが一向に見つからない。 河原に降りて見ることにした、先に進んだ弟が「ここ、滑っから気を付けろよ」と自分で言った矢先に「ガー!」と言う獣のような鳴き声を残して弟は河原まで転げて行った、「馬鹿かお前は何やってんだよ」と笑った矢先に「デー!」と言う叫び声と一緒に僕も河原に落ちた。 もうちょっと先にもう少し楽に降りられる場所があったのに何故こんな場所から入ったものか、「お前、独りで来る時は変な場所入るんじゃねえぞ、携帯も通じねえんだからよ」と、久しぶりに兄らしく注意してやった。弟にはいつも起こられてばかりなので久々に良い気分だ。 結局、ブローディンのランディングネットは見つからず、この辺りから釣りすることにした。 ここは僕の好きな釣り場、開けたゆったりとした流れが時折カーブして深いプールを作り出すフライキャスティングには絶好の流れだ。魚影は決して濃くないが、時折大型がロッドを絞り込む、釣り人の数も多くないので自然に溶け込んで釣りが出来る区間だ。 最初の大場所は、必ず良型が顔を出す場所、上のプールからの流れ込みが下流に広く長い流れを作っていて大石が所々に好ポイントを形成している。 ところが、どこにフライを落としても誰も見向きもしない、魚がいなくなったんじゃないかと思うくらいに無反応なのだ、その上の、プールもその上の流れもしかりである。

元を見ると真新しい足跡が点々と上流に続いている、形跡からおそらく餌釣さんだと思うが、このまま後を追うと直ぐに追いついてしまうだろう、脱渓場所の橋までかわせる場所も無いのであきらめてここから川を出ることにした。 登山道をひたすら下り、温水平を抜けてゲート前の駐車場までおよそ30分気持ちのいいトレッキングだ、「どうするポイント変える?それとも止める?」と言うと「んー、止めるか!」と弟にしては珍しく早々と撤収の決断、「じゃあ、川入荘で風呂入ってその辺で昼飯食って帰るとすっか」 川入荘の露天風呂でさっぱりしたところで、残るは昼飯だけだそれで今日の予定は完結する。 小玉川地区にはうまい蕎麦を食べさせてくれる「越後屋」と言う民宿がある。いつも蕎麦を食いに立ち寄るのだが、今日の気分は蕎麦ではない「がっつり食いたい」と言う事で珍しく兄弟の意見が合った。 因みに越後屋の「熊の手蕎麦」が話題になったのはもう随分と昔だが、今もメニューに載っている。要予約100,000円なり。

金ちゃんラーメン小国店
金ちゃんラーメン小国店、流石雪国だけあって床が高い。
金ちゃんラーメン小国店
金ちゃんラーメン小国店、流石雪国だけあって床が高い。

て、小国町まで下ったもの何処で何を食ったらいいものやら、数少ない食堂は日曜日は休みって所ばかりだ、「どうする?米沢まで行く?」「いや、そんなに我慢できん」「金ちゃんラーメンあったな」金ちゃんラーメンって山形には十数件あってどうやら皆のれん分けの店らしい、福島のトラ食堂みたいなもんか(笑)でも店ごとに特色があるらしいのでトラとは違うな・・・。   弟は別の店舗で何度か食べているらしく「割とうまいよ」と言うので、それに乗っかてみた。   僕は、しょうゆラーメンと半ライスを、弟が力もち味噌ラーメン?(餅が入っている)を注文した。   弟は、珍しいものがあると食って見ないと気が済まない奴なので、いつも変ったものを注文しては「ウーム・・・」と言うのがお決まりになっている。先日は米沢でざるラーメンと言うものを注文した、期待して待っていたらざるそばの麺が中華麺に変わっただけだった。苦虫をかみつぶしたと言うのはああいう顔の事を言うのだと実感した。  僕はと言えば、先日、喜多方のラーメン屋「食堂 はせ川」で教えられた「ご飯の上にラーメンの具材チャーシュー、ネギ、メンマ、麺まで乗せてスープを少々、胡椒 を少々・・・ご馳走です」にハマっていて、ラーメンに半ライスを付けるのがマイブームになりつつある。

金ちゃんラーメンしょうゆラーメン
太めのちじれ麺は結構ズシリとくる大盛りは要注意。
金ちゃんラーメンしょうゆラーメン
太めのちじれ麺は結構ズシリとくる大盛りは要注意。

注文を取りに来た、いがぐり頭の高校生バイト君に「しょうゆラーメンと半ライスを」と頼んだ時に、「しょうゆらーめんは普通盛で良いですか?」と聞き返され、その瞬間に・・・ ん、何?その体格じゃ普通盛じゃたりねえんじゃね?とか考えたのかお前?・・・とか、脳みそが勝手に判断して「ん、じゃあ大盛りにすっか・・・」と言ってしまった。 追加で「おまえ、商売うめーな」と褒めてやった。  「え、本当にたべられんのか?ライスまで頼んだのに・・・」と弟に言われて我に返った時には既に手遅れ。  そもそも普通盛りの量自体が結構なものだった、それの大盛りに白飯・・・、子供の時から亡き母に「食べ物は残すんじゃない!」と教えられている僕は胃袋が破裂する限界まで詰め込んで店を出た。 ブナ林に包まれた流れで癒された僕の前頭葉はすっかりα波に包み込まれていたらしい。 「おい!もうちょっと静かに運転しろ、吐くぞ!」「良く考えて注文しろ!」「あー、ちょっと静かにしろ気持ち悪くなって来る」「馬鹿か」・・・。  

・・・自宅までの道のりは長い

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