釣行記 4月2日(日)鮫川支流入遠野川の釣り

釣り

当然、昨日のリベンジの巻

今日は別の予定があったのだが昨日の出来事があまりにも尾を引きそうな気がして、ここ何年もしたことのない早起きをした。今日は忘れずにスペアのリールも持って行く。

早朝6時に家を出て近所のコンビニで朝食のおにぎりと飲み物、昼用にカップ麺を買い込んだ。何やら少し肌寒く昨日の幸福感は微塵も感じられないリベンジの日である。

昨日と同じルートで川を目指すが昨日の清々しさとは打って変わって少しどんよりした空気が天井の雲から降ってきていた。橋の脇に車を停めて釣り支度を始めるが流石に肌寒くてシャツを2枚はおらずにはいられない、もう一つ昨日と違うのは助手席に2つのリールが転がっていることだ。ベストの背中に予備のSUSSEXを入れて川へと降りた。

今日は抜かりなく

川に降りる土手には白い可憐なニリンソウや薄紫色のカタクリの花が所狭しと咲き競っている、この毎年変わる事の無い風景に春の釣りの始まりを感じて自然と心が穏やかになる。春先のティペットは7X、それにアダムスの16番を結んで浅い流れにフライを落とした。未だ水温が上がらないからか宙を舞う虫の姿もマスクラットのボディにブラウンとグリズリーのハックルをダビングしたフライを咥えるヤマメの姿も無い。

毎年解禁を祝うようにカタクリやニリンソウが咲き誇る渓

川岸には見るからに真新しい足跡がついていた、どうやら本日1クール目の釣り人が入っているようだ。いつもなら釣り人の1クールか2クールが過ぎて魚たちも少し落ち着いた頃に入渓するのだが今日は少し早い時間に入ってしまったので先行者の後追いをする形になってしまったようだ。

小さいヤマメが僕の進む前を走り回る、暫くチビヤマメを蹴散らしながら進んで行くとやっとのことヤマメが水面を割ってアダムスを咥えた。解禁の一尾目が流れに逆らってロッドティップをクンクンとあおる、ハンドランディングした掌の上でピョンピョンと跳ねるヤマメはワカサギを少し大きくしたくらいのサイズだ、「ちっせえなあ」と思わず口に出る、それでも記念すべき解禁の一尾目、優しく優しくリリースしたのである。

何時もながらこの時期のヤマメは小さい、でも美しい

渋いながらも数尾の春ヤマメと遊んでもらいながら上流をめざしているとガサガサと音がして藪の中から餌釣りのおじさんが顔を出した。おじさんは目の前に居た私にびっくりしたように丸い目をして「あらら、フライやってんのか、それじゃあここから入るわけにはいかねえなあ」と照れ臭そうに私の顔を覗き込んだ。「申し訳ないですね、もう少し川が広ければねえ」と笑って答えると「じゃあ、もう少し上から入るか」と言って藪の中に消えた。

こんな小さな流れに入れ替わりで釣り人が入るのだから流れの中から出るヤマメはそうそういない、イワナが好むような小さなスポットの石裏からたまに顔を出すけれどヤマメはやっぱり流れで釣りたいのである。

そろそろ腹も減って来たのでもう少し下流に下ってお昼にしよう。いつもの場所に車を停めてウェーダーのベルトを緩めた。この場所に車が無いということは既に釣り人が上がった後だろう、これは思いのほかのんびりと釣りが出来そうだ。昼食をとり一休みしてから1キロメートル程下流まで歩き入渓することに決めた。

折りたたみの椅子だけ出してmiroのパーコレーターでお湯を沸かしカップ麺に注いだ。3分待つ間も無く上流側から大股で餌釣りのお兄さんが歩いてきてカップ麺の出来上がりを待つ僕の前を通り過ぎた。「あらまあ、僕の前に入渓しちゃうのね」少しばかり肩が下がったけれどまあ仕方が無い。彼が釣り上がる頃を見計らって川に入ろう。

寒くてご調理器具を出す気にはならなかった、温かいカップ麺が一番

そんなことを考えながら出来上がったカップ麺を食べ終えてまったりしていると隣県ナンバーの車が目の前に停まった。「釣れたかい」と聞かれたので「まあ、ボチボチですね」と答えたのだがそれを聞いた彼は顔色を変えて助手席の仲間に向かって「ボチボチだってよ」と顔をしかめて低い声で話しかけた。

「え、何?何か変?」私は思わず心の中でつぶやいた、ボチボチって彼はどんな意味にとらえたのだろう「そんなに?」なのか「それっぽっち?」なのか分からんのだが額にしわを寄せて話すような事でもあるまい。私のボチボチの基準は5匹くらいのことを言うのだが、もしかしたら彼らの基準は50匹位なのかもしれない。

この細い流れに彼らにも入られたら後追いの釣りも流石に厳しいので下流に向かうのは諦め、彼らを見送ってから目の前の短い区間だけ釣って今日の釣りを終えることにした。

崖を滑り降りてちょっとの間釣りをする
ボディをコックデレオンのストークで巻いたアダムス

笹と木の枝を交互に掴み河原まで滑り落ちた。浅いプールの尻にはチビヤマメが出ていて僕の姿を見ると右往左往しながら上流へと走っていくが釣りたいサイズのヤマメにはお目に掛かれない。それでもフライを咥えたチビヤマメは一様に美しく「春の釣りはヤマメに限る」と心の中で呟くのであった。

マエグロヒメフタオカゲロウの雄が群飛する季節になった

午前中は全く見えなかった虫たちもチラホラと姿を見せた、5メートルほど先に十数匹のスピナーのが群飛している。足元の石の周りに集まっているのはマエグロヒメフタオカゲロウの雄たちだった。ホイットレーのアルミの箱からテールを長めに巻いたクイル・ゴードンを取り出してティペットに結んだ。レモンウッドダックのVウイングのフライはクイル・ゴードンに限らず良く見えて良く釣れる、春先のメイフライシーズンには欠かせないフライ達だが、マエグロの、特に雄のか弱いシルエットとダークグレイの色合いはこのフライがベストマッチだと信じている。

クイル・ゴードンの細身のシルエットとダークなカラーはこの時期のヤマメが好むフライだ

右岸の直角な崖と左岸の芦原に挟まれた流れは小さな沈み石がヤマメの好む流れを形成している。いかにもおいしそうな流れにそっとフライを落とすと飛沫を上げてヤマメが水面に踊った。なかなかの引きでさっきまでのチビヤマメとは違いそうだネットに入ったヤマメはこの川にしてはまあまのサイズだったが残念ながらちょっと尾鰭の欠けた成魚放流のヤマメだった。

個人的には成魚放流の痛々しいヤマメを見るのは余り好きではない。釣り人に満足してもらうためには漁協にとっても致し方ないのだろうし、それなりのサイズの魚を釣りたいのは私も一緒だから気持ちは良くわかる。でも私は綺麗な魚だけ釣りたい欲張り者なのである。

小さくても美しければそれで良い

僅か10メートルほどの流れで4尾のヤマメが釣れた、午前中の痺れる釣りと違ってヤマメも元気になった。これがヤマメの釣りだよなあと自分で納得しながらニリンソウの群生する道を車に向かった。既に昨日のリベンジの事などすっかり忘れていた。