釣行記 5月21日(土)~22日(日)山形県周遊の釣り(その1)

釣り2022

Leonard Millsが逝った日

そろそろ釣りキャンプが恋しくなってきて弟に電話をした。天気予報も問題なさそうだし、トントンと話は決まった。ただ、肝心な対象の川だけ決め倦んでいた。福島県内の川は浜通りを除き去年からの大雪の影響で例年より水位の下がりが遅い、それは福島県に限らず東北の大きな山を背負う川は未だに雪代が引き切っていないだろうし、折角キャンプするんだから近くの川じゃあつまらないし。岩手の太平洋側あたりなら良いかなと思っていたが、弟の「実は白川にいくつもりだったんだ」と言う言葉に負けてとりあえず置賜白川を目的地に据えた。胸の奥に「雪代大丈夫かね?」と大きな不安を抱えたままそう決めたのにはそれなりの思いがある。

久しぶりに少しキャンプらしいキャンプをしたいのと、夜は温泉にも浸かってまったりとした時間を過ごしたいという贅沢な欲望に負けたのである。まあ、増水で釣りにならなくてもキャンプが出来るじゃないかと言う緩い打算もあって飯豊山の麓まで(これだけで既に半分は釣りをあきらめている気がする)出かけることにした。

置賜白川の釣りの帰り道に汗を流しに寄る白川温泉『白川荘』が管理するのが『白川ダム湖岸公園キャンプ場』、フリーサイトもあるので私のキャンプスタイルにもピッタリである。今回はここにテントを張り近隣の川を釣ってみようという何とも極楽仕様の釣り計画なのである。

置賜白川までなら自宅から150㎞程、いつもなら金曜の夜に出発するところなのだが、寄る年波でそれだけの元気が出てこない、出発は土曜の早朝にした。郡山市から喜多方市に出て国道121号線を米沢市方面に向かうルートをとる。

なんやかんやで結局出発出来たのは午前7時半を過ぎ、すでに午後の時間しか釣りには残されていない。早速腹の虫がなる、普段ならコンビニでおにぎりを買ってかぶりついているところだが今回は喜多方経由である、喜多方と言えば喜多方ラーメン、そう、僕らは朝ラーを食っていくことにしたのである。あちこち眺めながらのんびり走ってきたこともあって喜多方に着いたのは9時過ぎだった。さて何処のラーメンを頂こうか、あそこはどうだのここは有れだの解説ばかりで一向に決定打が出てこない。ここは兄の意志の強さで喜多方の超有名店『坂内食堂』に決定した。

「混んでるかね?」「そりゃあ土曜日だから並んでるでしょ」「ああ、ラーメン食うのに並びたくねえ」「でもまあ、ラーメンだから回転率良いし仕方ねえ並ぶか」などと話しながら喜多方市役所を目指す。喜多方市役所の駐車場は休日は一般開放していて、駐車場からすぐ一分もかからず坂内食堂へと抜けられたのだが、今は市役所に御用の無い方の駐車は固くお断りしている。坂内食堂前の公園に通り抜け出来た門は塀へと変わっているのでここから坂内食堂へのルートは完全に遮断されている。大人の事情があるんだろうなきっと。

そう言えばすぐ近くに坂内食堂の駐車場があるのを思い出した。普段はいっぱいになる駐車場も今日は何故かそれほど混んでないし店の前にも並んでいる人影はない。「あれ?やってるんだよな?」「そりゃ、やってるでしょ」「だいたいもう朝ラーの時間じゃないからね、10時過ぎてんだから」店脇の駐車場にも県外ナンバーの車が数台停まっているので店はやっているのだろうが、こんなに空いている坂内食堂を最近は見たことが無いので少し不安になり弟を先に偵察に向け駐車場に車を停めた。車を置いて店に向かうと弟が手を振っている、どうやら並ばずに入れそうだが店の中はすでに結構なお客さんで賑わっていた。幸いにも一つ空いていたテーブルがあったので僕らは待たずに座れたのが数分後には次々とお客さんが待ち行列に繋がっていった。

坂内食堂と言えば肉そば、柔らかチャーシューが旨い

坂内食堂と言えばやはり肉そば(所謂チャーシュー麺)である。柔らかなチャーシューが一面に並べられている、私は迷うことなく肉蕎麦を弟はネギチャーシュー麺を注文した。やはり人気店はそれなりに旨い、満足して膨らんだ腹(満足しなくても膨れているが・・)をこすりながら、近くのヨークベニマルで酒と食料を買い込み一路白川ダムを目指した。

国道121号線は山形県米沢市を起点に会津地方を南北に縦断し栃木県日光市から益子町に至る会津の中心となる主要道路である。喜多方市から峠を越えて山形県境を超える大峠道路は喜多方市方面から向坂むかいざかトンネル、明ヶ沢第一みょうがさわだいいちトンネル、明ヶ沢第二みょうがさわだいにトンネル、弥平やへいトンネル、日中にっちゅうトンネル、不動ふどうトンネル、地蔵じぞうトンネル、石楠花しゃくなげトンネル、大倉おおくらトンネル、さがしトンネル、御手窪おでくぼトンネル、高倉たかくらトンネル、大峠おおとうげトンネル、八谷やたにトンネルとなんと14個ものトンネルを抜ける必要があり、それぞれのトンネルを結ぶ橋が23橋もある。それだけで旧峠道がどれだけの難所だったのかが分かるだろう。

山形県境を過ぎて程なく、右手に道の駅『田沢なごみの里』が見えてくる、いつもの夜討ち朝駆けではここを休憩場所にすることも多いのだが今日は昼間の出陣なのでここはすんなりとやり過ごし、その少し先で左折し米沢飯豊線を川西町から飯豊町へと向かう。

米沢市と川西町の市長堺の坂ほを越えると左手に『米沢ゴルフ倶楽部の跡地』が見えるのだが、いつの間にかゴルフ場跡の傾斜一面にソーラーパネルが所狭しと並んでいる。『川西ソーラーパーク太陽光発電所』と言うらしい。近年はすっかりお馴染みになった風景だが、丘陵地や、それこそ削り取られた山一面に並ぶソーラーパネルの異様な景色にはいささか胸の奥が苦しくなる。

風力発電所の風車もしかりで、知人のパイロットが上空から見た山の風景にひどく落胆していたことを思い出す。景観もさることながら削られた山が土砂流出などの災害や自然破壊につながらないことを願ううばかりだ。再利用可能エネルギーと言えば聞こえは良いがカーボンニュートラルを合言葉に森林伐採をするなど本末転倒だ、時代のニーズなのかもしれないが必要を超える発電所が日本の山を埋め尽くすことが無いことを祈っている。

さて、川西町玉庭まで下ると県道7号線は交差点に出るが、直進は県道8号線で左折するのが県道7号線(米沢飯豊線)である交差点の家の壁面に白川ダム湖畔オートキャンプ場 7Kmの看板が有るので迷うことはない。やがて、眼前に白川ダムが見えてくるとダムを左に越えて目指す『白川荘』が現れる。

今日はここのキャンプ場にテントを張り白川荘で温泉に浸る予定だが、時間も時間なので釣り場に向けて直行する。途中、樹木の隙間から時折川の流れが目に入る。「あれ?結構水量があるねえ」「やっぱりなあ、なんたって飯豊山だからねえ・・」そんなこと想像出来ていたでしょうに。登山口近くの広場に車を停めて身支度を済ませると小さな沢沿いに川に降りた。

沢との出会い、水圧の強さにたじろぐ

目の前の流れは、随分と広く小さな白波が繋がりあって流れていく。沢とのの出会いは想像を超えて深く重い、これはちょっとやそっとじゃ遡行できないかもしれない。

先に川に入って上流に向かっていた弟が下って来て「いやあ、無理無理。そこでもう渡れないわ」と私が釣り始める前に引導を渡して来た。弟が渡れないと言うプールは、普段なら渕尻が20センチメートル程で難なく渡れる場所なのだが「え、そうなの?あそこの尻は、浅いんだぞ、ほら波も立ってないだろ」と弟の引導をかわして上流へ向かってみるが、十数センチの水深でさえ水圧は想像以上に強く、思うように足が前に出ない。やっとのことでプールの右岸に出た、ここから渕尻を左岸に渡るのだが膝程まである水量は、私に向かって「やめておけ、やめておけ」とささやいてくる。「あー!ウェーディングスタッフもってくりゃ良かった、車に入ってるのに・・」やめておけやめておけと言ってくる流れを膝上まで浸かってやっとの事で左岸の河原に渡った。

ここからならプールの両岸にフライを流せる、早速渕尻から右岸へ、左岸の足元の沈み石周りから流れ込みの白泡周りまでフライを落としたが全く反応は無く、分厚い水量の前には成す術もない。この上のプールの尻に移動したものの、落ち込みを形成する大石を越えて流れる水量に流石に渡渉はあきらめることにした。先のプールで一尾でも釣っていたら命がけで渡ったかもしれないが。やっとの思いでクリアした流れは、今度は後ろから足をすくってくれようとばかりに膝裏を狙って絶え間なく襲ってくる。

中州は右岸がゴロタ石が形成する広い河原になっていて、左岸に絞られた流れが流速を増して流れ下っている。「下流にちょっと下がって河原の端から釣りあがってくるしかないな」と下流に下った弟は左岸の激流を釣りあがってくる。流れの端には大石が入っていて緩い弛みや巻き返しを作っている、魚がいさえすれば絶好のポイントであるが、弟の竿が曲がる様子はない。

水流が絞られた中洲の左岸、魚なの反応は無し

やっと水圧から解放された私は弟が釣っている少しだけ下流を釣ってみようと右岸の河原から藪を抜けて川に出た。左岸に、良いポイントが見えるのでまたしても強引に川を渡ったが考えてみれば普段ここは川ではない、あたりの景色を良く見ると水量が多いだけでなく、川の流れ自体が変わっているのだ。やはり何度フライを流したところでそれに反応する魚の姿は無い。水量が落ち着いてからでないとポイントの判断も難しい。

弟のところに戻った。「どうよ?」「全く、何も無し」まだ、しばらくは川が落ち着くのを待つしかなかろうな。早く活性の上がったイワナの顔を見たいものだ。

車に戻り着替えをしているうちにポツリポツリと雨が降り出した。時計の針はまだ2時半、川を変えるかテントを張るか考えながら車を走らせると、雨粒の大きさがどんどん大きくなってくる、「なんだ、雨なんか降らない予報だったべ」「こりゃテントを張るどころじゃねえな」一体全体どうしたもんだろう。「庄内なら良いんじゃないか?」「日本海ならおそらく、雪代も落ちてるべ・・」もうすでに今日のキャンプも釣りも諦めていた、県道八号線(川西小国線)に入り横川ダムを経て国道13号に向かった。「なんか、この時期、毎年同じことしてねえか?」「あれ、去年もしたような・・」「一昨年もな・・」

デジャブではない、どうやら私たちの恒例行事になっていたようだ、今年は特に積雪が4月中旬まで残ったことも影響していることは否めないが、年始めの山形釣行はいつもこんな感じで始まるのだ。国道13号を新潟県村上市に向けて走る、年に数回は釣りをしに来る小国町を素通りして関川村へ、「道の駅で風呂入って行くか?」「ああ、混んでるかな・・」なんて言っているうちにその『道の駅関川』も通り過ぎた、この大雨の中じゃ車を降りたくないのが本音。

道の駅を過ぎて間もなく国道113号線から県道273号線に入り荒川を渡る、何度も通った道だがなんとなく新鮮なのはこの先が日本海だからかもしれない。県道273号線は村上市と関川村を結ぶ一般県道だが、関川村の上野新(女川ハム工房前)で左側の国道290号と合流し同村宮前交差点で直進する国道290号と別れ右折するまでの約1Kmほどが国道と県道の重複区間だ。私たちは国道290号を進み村上瀬波温泉ICから日本海東北自動車道に乗った。

大雨は止む気配も無く、思考力も雨の音に流されていく。「これからどうする?」「山熊田はどうかね」「ああ、ヤマメ小さいんだよな」「下流の中継川なら良いんじゃね」「見てくか」などと話しているうちに終点の『朝日まほろばIC』で国道7号線に出た。

雨の国道7号線、日本海沿いの大好きな道だがこの雨が思考回路を鈍らせる

朝日まほろばICを出ると直ぐに『道の駅朝日』がある。ここには『あさひみどりの里』と言う多目的大型施設が併設?(道の駅が小さく見えて肩身が狭そう・・)されている。物産会館からレストランから宿泊施設や『あさひきれい館』と言う大型入浴施設まである。釣りの帰り、汗を流して行くのに使わせてもらっている。

「ここで風呂に入って行く?」「え?中継川見てくんじゃねえの」「あ、そうか」「温海温泉の共同浴場に入れば良くね」「ああ、でもこの雨だし、駐車場遠いじゃん」「だよねえ」などと話しているうちにまたしても今日の風呂は遥か後方に消えていった。

「で、今夜はどうすんのよ」「この雨じゃテント張るのもしんどいしなあ」「んじゃ、しゃりんか?しゃりん」気づけば中継川を眺めることもなく、鼠ヶ関川も通り越し釣りの事などすっかり忘れて道の駅に着いたのである。

道の駅あつみ、お土産やさんの名前が『しゃりん』

しゃりんとは『道の駅あつみ』にある物産館の名である。いかにもへんてこな『しゃりん』と言う名前だが、初めは自転車やバイクの事を意味してるのかと思っていた、実際、情報館の奥には畳の休憩室があり「自転車やバイクの利用者の方は天候回復までの間休憩に使って良いよ」的な張り紙があって、そうか二輪に優しい道の駅なんだとずっと思いこんでいた。

実は温海温泉の海岸沿いにマルバシャリンバイ(丸葉車輪梅)と言うバラ科の常緑低木が自生していて、ここが北限とされているらしく、旧温海町の町の花だったことからここ道の駅に『しゃりん』と言う名がつけられたそうだ。情報館の裏、日本海に面した庭の真ん中にマルバシャリンバイが自生している(植栽されたものかもしれないが)ので一度ご覧あれ。

『しゃりん』の裏には磯に降りられる階段がある

ここを通るときには必ず寄る道の駅だが、日本海にちょこっと突き出した地形になっていて日本海が一望できる道の駅の裏庭が大好きである。ここから下の磯に降りる階段もあり散歩するのも楽しい、この日も磯釣りの人たちが竿を出していた。日本海に沈む夕日が見れる最高のデートスポットでもある。この夜、沖に浮かぶイカ釣り船と沖に浮かぶ淡島灯台の灯を肴に安バーボンを飲みながら一夜を過ごした。

バーボンとランタンの灯、そして水平線に粟島の灯台の灯がみえる
赤く見えるのが粟島灯台の灯、手前の白い灯がイカ釣り船

すっかり観光案内記事になってしまったが、これは釣行記である。山形遠征一日目、そうとも「」だよ「ボ!」「BO!」!だよ。